ヴァージニア・ウルフ
(『自分ひとりの部屋』文庫版189頁)
こう続く。〈現実(リアリティ)〉はまた……
「一部屋に集った人たちを照らし出し、何気ない一言に刻印を押します。星空の下で家路につくひとを圧倒し、静寂の世界のほうが言葉のある世界よりも真に迫っていると思わせたりします。そうかと思えば、ピカデリーの喧騒の中を走るバスで見つかったりもします。はるか遠くの、どんな性質のものかわからないものに宿ったりもします。ともあれ〈現実〉は触れるものを何であれ不動のもの、永遠のものにします」(上掲書190頁)。
ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)はイギリスの小説家、評論家。『自分ひとりの部屋(原題A Room of One’s Own)』(1929年)は、イギリスで男女平等の参政権が認められた1928年に、ケンブリッジ大学の女子学生に対して行われた講演原稿をもとにまとめられた著書。上掲の言葉も、男性の著者による最近の「歴史書は戦争のことばかり、伝記は立派な男たちのことばかり、詩は……不毛になりつつある」なかで、「みなさんにはあらゆる本を書いてほしい」と発破をかけるくだりで、一種の提案のように語り出されている。
こう続く。
「作家というものは、この〈現実〉を見据えて生きるチャンスに、他のひとより恵まれています。作家の仕事は、この〈現実〉を探し、収集して、他のひとたちに伝えることにあります。
少なくともそれが、『リア王』『エマ』『失われた時を求めて』を読んでわたしが感じたことです。
これらの本を読むと、まるで診察台に横になり五感に手術を施されたようで、以前よりもっと鮮明にものが見え、世界は覆いを剥がされ、より強烈な生命を与えられたように感じられます」(190頁、改行は引用者が加え、訳文は僅かに変更している)。