森田真生

(絵本『たくさんのふしぎ ありになった数学者』14頁)

昨日に引き続き、在野の数学者、森田真生(1985- )の絵本『たくさんのふしぎ ありになった数学者』から。物語では、数や図形の世界を探求する数学者の「ぼく」が、ある日気がつくとアリになっていた。雨が降りだして、大きな滴(しずく)を避けながら巣に戻ると、いち早く雨を予期して逃げていた同じ巣のアリたちに笑われた。アリたちは未来を正確に「計算」していた。

「ぼく」はアリたちと数学について語りあいたいと願うが、見つけた「七つ」のアスパラの実を巣へ運びながら、「二つ目」「三つ目」と数えても理解されない。アリにとっては「どれもおなじ『アスパラの実』で、それ以上でもそれ以下でもないようだった。彼女〔アリたちの一匹〕はただ黙々と、一つのアスパラの実を運んでは、また一つのアスパラの実をを運ぶだけだった」(24頁)。「数」が理解されない。「ぼく」は途方にくれて、「脚が六本あるアリのいったい、どこからどこまでが『一歩』だろうか」などと考える。

「『一つ』にしても『一歩』にしても、すべては結局、人間にだけ通用する言葉なのだ」(24頁)。

翌朝、雨がやんで巣を出ると、うれしそうに呼吸する木の葉に、ほんのりと甘い味のする朝露(あさつゆ)が輝いている。女王アリに促されて、その露をのぞき込む。そうして「『一粒の露』と全身でむきあう」と、色とりどりの光線がたがいにいりまじり、ゆらゆら、きらきらしているのがわかる。「何千、何万とあるはずの露。その一粒一粒に、また無数の露がうつりこんでいる」(32頁)のだった。

女王アリは言う。「わたしはここで、朝の露を数えていたのよ。今朝かぞえただけでも、三万五千六百七十一の露……」(33頁)。アリにはアリたちの「数」の世界があるようだった。

「わたしたちにとって数には、色や輝きや動きがあるの。……まわりからてらされ、まわりをてりかえしながら、刻々と変化しつづけている。それが生きた数の世界よ」(37頁)。そう言う女王アリは、「群れ全体のからだで、世界を感じつづけている」のだった(38頁)。

文献:『ありになった数学者』 (たくさんのふしぎ傑作集) 単行本 – 2018/10/3(クリックでAmazonに移ります)※月刊「たくさんのふしぎ」シリーズとして2017年9月に配本後、2018年10月に単行本化されている