武満 徹
(『音、沈黙と測りあえるほどに』196頁)
武満 徹(たけみつ とおる 1930-1996)は作曲家。戦後、ほぼ独学で作曲を学び、西洋のクラシック音楽の室内楽や管弦楽曲の作曲を続けた。1957年には《弦楽のためのレクイエム》がストラビンスキーに認められ、1967年にはニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団の依嘱で《ノベンバー・ステップス》作曲。後者は琵琶と尺八と管弦楽のための作品で、欧米と日本の音楽界に大きな衝撃を与えたとされる。他方、勅使河原宏や黒澤明など著名な映画監督の作品の音楽も手がけたほか、チャーミングなポピュラーソングも多数ある。また、音や音楽をめぐる折々の思考を著書に残している。
上掲の言葉は、武満自身が西洋音楽に邦楽器を取り入れて作曲する際に理解したこととして、前後を含めると次のように言われている。
「〔琵琶や尺八の〕一撥(ばち)、一吹きの一音は論理を搬ぶ役割をなすためには、あまりに複雑Complexityであり、それ自体ですでに完結している。一音として完結し得るその音響の複雑性が、間(ま)という定量化できない力学的に緊張した無音の形而上学的持続をうみだしたのである。たとえば能楽の一調におけるように、音と沈黙の間は、表現上の有機的関係としてあるのではなく、それらは非物質的な均衡のうえにたって鋭く対立している。繰りかえせば、一音として完結し得る音響の複雑性、その洗練された一音を聴いた日本人の感受性が間という独自の観念をつくりあげ、その無音の沈黙の間は、実は、複雑な一音と拮抗する無数の音の犇(ひし)めく間として認識されているのである。つまり、間を生かすということは、無数の音を生かすことなのであり、それは、実際の一音(あるいは、ひとつの音型)からその表現の一義性を失わした」(上掲書196頁、下線は原文)。