ティム・インゴルド
(『ライフ・オブ・ラインズ 線の生態人類学』筧菜奈子・島村幸忠・宇佐美達朗訳 272頁)
ティム・インゴルド(1948-)は、イギリスの人類学者。従来の民俗誌的な記述、つまり人間社会と文化に関する経験的データの提示にとどまらない、新しい人類学のあり方を示す著作で、芸術、哲学、建築などの幅広い領域で影響を与えている。人間の社会と文化の中に見出されるラインを捉えて縦横無尽に考察している『ライフ・オブ・ラインズ 線の生態人類学』(Tim Ingold, The Life of Lines, Routledge, UK, 2015)はその一つ。
上掲の言葉は、「行動する前に考えろ!」と言う(それは確かに賢明な助言だ)が、このとき、考えることの本質はどこにあるのか? という問いを出して、その答えとして記されたもの。インゴルドによれば、心のうちで行われる情報処理はその本質ではない。
また、インゴルドによれば、西欧の伝統では息継ぎを過小評価するきらいがあり(「あたかも行為者は一度も息をせずに話したり小休止なしに活動することができるかのように」)、「演説者が話すことを、歌手が歌うことを、フルート奏者が吹くことを教わるとき、息継ぎとその結果として生じる休止を可能な限り短くするように言われ」、「休止することはと躊躇(ためら)いのある、力弱い、優柔不断な歌であると見られる」(同書273頁、175-176頁)。インゴルドはこの伝統を変えようと提案しているのである。
※なお、原文(訳書)では、上掲文中の「つまり待ち構えることである。」は傍点つきである。